Derailleur Brew Works

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BEER

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梅海

梅干しの持つ塩分のみで乳酸発酵させた、爽やかな酸味と塩味のサワービールです。梅ゴーゼ
原材料:麦芽/ホップ/梅/アイリッシュモス
ABV:3.5  IBU:6 SRM:2

¥3,960 ~ ¥15,840

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リングの上で、太陽はふたつもいらないだろう。

そう言 われたのはボストンバッグ一つ引っさげて、入団させてくれと頼みに行った16の春だった。
春なのに、めずらしくこの街にも雪が降っていて、押し退けるように梅の花が一輪だけ咲いていた。
枝を覆い尽くす真っ白な雪の中、ぽつんとピンクの色をしていて。
なぜだかはわからないが、あの花をずっと俺は覚えている。

本当はわかっている。俺のグランマ ‐俺には日本人の祖母がいて、ニシナリという街の話を俺によくしてくれた。
俺を、ずっと育ててくれた人だ‐ がずっと好きだった花なんだ。
物心ついたときには、両親は俺のそばにはすでにいなくて、グランマがずっと俺を育ててくれた。
ケイコって名前だったけど、俺にはグランマって呼べって口を酸っぱくして言っていた。

俺は泣き虫で、ずっと苛められていた。
庇ってくれたのは隣に住んでいる同級生のマツザカだけで。
俺にはマツザカとグランマしか世界がなかった。
泣き止むことの無い俺を見兼ねて、グランマは梅の花の実を赤く漬け込んだものを取り出してきて。
俺とマツザカの口に放り込むんだ。
すごく酸っぱくて、顔を顰めているうちに、涙が止まっていた。
泣きそうなときは、この実を口に入れたらいいのさ。いつか涙も忘れちまうよ。
グランマの口癖だった。

プロレスラーになりたいわけじゃなかった。
マツザカが俺を誘ってくれて、二人で頂点を目指そう。
そしていい車を買って、家も買って。
肉を飽きるまで食ってやろうぜ。
マツザカにも俺にも、豊かさがそれ以外にわからなかった。それが俺たちの世界で。
俺たちの街じゃ、15を過ぎれば、みんな働きに出るのが当たり前だった。

グランマは俺に上の学校に行くことを薦めた。
だけどこれ以上グランマに迷惑をかけたくはなかった。はやく自分だけで生きていきたかった。
俺が寝たあと、梅の花の実を齧りながら、内職をしていたのを知っていた。
きっと泣きそうなぐらい辛かったに違いない。
それぐらいは俺にでもわかった。

グランマを早く安心させたかったから。
毎月手紙を書いた。
少しずつ筋トレの数値が上がったこと。
新人戦でマツザカとタッグを組んで優勝したこと。
地方のドサ回りで人気が出始めたこと。

グランマを早く安心させたかったから。
早くグランマにいい肉を食わせてやりたかったから。
グランマにデカい家をプレゼントしてやりたかったから。
俺の活躍はすべて仕送りに添えた手紙に書いて、伝えた。

グランマは俺の試合を見に来たいといつも言っていた。
あんたの活躍する姿が早く見たいねえ。
だけど俺は試合には一度も呼ばなかった。
16のときに、太陽は2ついらないと言われ。俺は月として、ヒール(悪玉)として
リングの上に立っていたのだ。
俺はベビーフェイス(善玉)になれなかった。
ずっと手紙で嘘をついていた。

手紙の中の俺は、ずっとヒーローだった。子どもたちのスターだった。
俺のラリアットで、俺のキック一つで歓声があがる。
実際の俺は、ブーイングの数だけ金になる。そんな男だったのに。
ずっとそれを言えずにいた。

グランマを呼べないまま、彼女は逝ってしまった。
もう俺のリングの姿を見せることはできなくなってしまった。
肉を飽きるほど、食わせてやることもできなくなってしまった。

葬式が終わったあと、俺は夜の海に、梅の花の花びらを浮かせた。
グランマが部屋で倒れていたとき、花びらを握っていたらしい。
何もかも吸い込んでしまうような紺と黒の境目のような海の色に、ほのかにピンクの色をした、
梅の花びらが、沈むことなく沖の方に流れていった。
紺と黒の境目に、吸い込まれることなく、ずっと、ずっと、花びらは浮いていて。
滲んではひとひら、滲んではひとひら、海に沈んでいった。
すべての花びらが沈んでも、俺の視界はずっと滲んでいて、なにも見えなくなっていた。
見えないままでよかった。すべて沈んだら、グランマが逝ったことを認めてしまいそうで。

俺は今日もリングに立ち続ける。
ブーイングは俺への愛情だ。どうしようもないクズを求めるどうしようもない日常を。
過ごさざるを得ないやつたちのために。俺はリングに立ち続ける。
マツザカが太陽として輝き続け、俺はあいつの光を受けて存在し続ける。
そして、今日もリングから、観客席を一瞥する。
いないはずの、グランマが。
いつも、どこかで見ているような気がするんだ。
俺は梅の実を、口に入れる。



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原料に小麦と塩を加え、乳酸発酵をさせることで酸味を加えた爽やかなビアスタイルのビール。
Derailleur Brew Worksでは梅干しの塩分でゴーゼの特徴である塩味を表現し、まろやかな酸味と香りにどこか懐かしさを覚える、ドリンカビリティの高いゴーゼに仕上げました。