Derailleur Brew Works

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BEER

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闇入者たちのピアノレッスン

フランス語で雛鳥を意味するベルギーの「グリゼット」というビアスタイル。
酸味とスパイシーさが立つビールです。
グリゼット
原材料:麦芽/ホップ/アイリッシュモス
ABV:3.0 IBU:20 SRM:4

¥3,780 ~ ¥15,120

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白と黒の鍵盤が、規則正しく「88」並ぶ。
フリアールにとって、それは88人の従順な下僕であった。

彼女が88の鍵盤を支配し、時には鞭打ってでも、
88の鍵盤に自分を満足させる音を鳴かせるのだ。
ねじ伏せるための恐怖、技術、そしてリズムを用い、
88人の下僕を圧倒していく。
ピアノを弾くということは、そういうことだったのだ。
フリアールにとっては。

2020年10月5日、『シン・世界』の2‐10郭
(ツーテンカク・タワー)で放電爆発が起きた。
当時政府の人造忽布推奨政策に不満を持つ者たち
『忽布集団(ホップ・ヘッズ』のテロリズムとも言われたこの事故は、
多くの死傷者を出したのみならず、彼らの心に深く消えない傷を残し、
また、見えぬ敵、『忽布集団(ホップ・ヘッズ)』への憎悪だけを生んでいった。

10月5日、フリアールも爆発に巻きこまれ、左腕と、右足を失った。
最愛の父と母も。
ニシナリエリア唯一の海の見える町、南港(サザンポート)。
少しばかりの急坂を越えた灯台のふもとに、うみねこが集まる公会堂があり、
その横に彼女の家があった。

いつも窓から聞こえてくるのは、笑い声と、ねじ伏せられた華やかなピアノの音色。
波の音に混ざり、時折うみねこが合いの手を入れるように鳴いていた。

その日を境に、ピアノの音色も、きっと引き寄せられていた海猫も、
そして彼女の笑顔も、希望も。
鍵盤をねじ伏せていた左腕も、リズムを刻んでいた右脚も。
すべてが消えてしまっていた。

波の音だけは、ずっと変わらず、そこに残っていた。

ある嵐の日だった。
ピアノが鳴らなくなったその家で呼び鈴がけたたましく鳴る。
ぼろ毛布をまとった40過ぎだろうか、
冴えない風貌の男がずぶ濡れで玄関の前に立っていた。
何も言わず、中に入るように手招きするフリアール。
彼が歩くたびに、蒸気が噴き出る音がする。金属が擦れ合う音。
『俺も、あの爆発で、腕を失っちまったよ』

隻腕の男は名をカネダと言った。
白髪交じりの無精ひげを自分でさすりながら
>求めてもないのに自分のことを語り始めた。
爆発があるまでは、調律師をしていたらしい。
アルコールを要求するので、フリアールは、図々しいなあ大人は、
と思いながらも、昔父が手作りしていたビールを倉庫から出して、
彼に投げた。

カネダは、グリゼットか、とつぶやき、
瓶のまま美味しそうに一息で飲んだあと、
『ピアノ、教えてやろうか』

部屋の隅に、埃まみれになった鍵盤をじっと眺めながら、そう言った。

報酬は、このグリゼットを毎度飲ませてくれたらいい。
フリアールにとって、カネダの提案はどうでもよかった。
ただ、父の作ったビールが、グリゼットっていうのか、
もっとそのビールの話を。
聞いてみたかったのだ。父に少しでも近づけるような気がして。

カネダのピアノ・レッスンを受けることにした。

毎週水曜日、真夜中2時にカネダはやってきた。
波が一番落ち着く時間だから、音に邪魔されないからだという。
月明りが鍵盤を照らしてくれる。

フリアールは、最新の筋電蒸気義手と義足を使っていた。
普段の生活には支障はなかったが、
そこには自分の意志と動作に神経伝達遅延(レイテンシー)が発生する。
それでは、圧倒的な恐怖と力で、鍵盤を支配することはできない。
頭に浮かぶリズムも技術も、もう同じようにはできない。
やっぱり、わたしからすべてを奪ったあの爆発が憎い。

泣きながら鍵盤においた手を止めるフリアールに、
カネダは自分の義手をそっと重ねる。
遅延があるなら、すべてをその遅延に合わせたらいい。
自分の義手でしか、鳴らせない音を、リズムを、自分の音として、
認めてあげたらいい。
いま、君に残されたもの全てを、あますことなく認めて、
力を借りていけばいい。
それが君の音で、君の生き方だ。
いま、あるもので、派手でなくていい、
粗野でも素朴でもいい、丁寧に鳴らしていけばいい。

カネダは義手を重ねたまま、
あるもので、丁寧に、素朴に、そう繰り返し
今日の報酬の瓶をひと飲みし、
そのままフリアールの唇にそっと自分の唇を寄せた。
『まるで、このグリゼットのようだ』

フリアールの指が、月明りの下、影を作りながら、
88人の下僕たちと新たな関係を結びだした。
ピアノを弾くということは、そういうことだったのだ。
フリアールにとっては。



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フランス語で雛鳥を意味するビアスタイル、グリゼットです。セゾンの亜種ともいえる、小麦の香り、わずかに香る檸檬の味わい、酸味とスパイシーさもありますが、極めて淡く、ライトなドリンカブルなビールとなっております。

今回はきんかんを加え、さらにドライホップに変更を加え柑橘のフルーティーさと、ドリンカビリティを高めた一品に仕上がりました。